横浜市は保育園への入園倍率が高く、保育園に落ちて親の社会復帰ができないことが多いことで有名です。少なくとも両親共働きで祖父母のサポートが受けられないという環境でないと、0-2歳で保育園に入ることは難しいとされています。申請時に第20希望まで保育園を書く人もいるようです。保育園に入れないことを理由に、横浜を出て藤沢市や大和市のほうへ引っ越す人も少なくないと聞きます。
しかし、横浜市といってもその入園難易度には市内で地域差があるはずで、その地域差を分析すれば横浜市に住みながら保育園の問題を解決できるかもしれません。そこで特に保育園激戦区と言われる横浜市港北区を例に、字単位でその倍率と地価の関係を可視化してみました。結婚や引越等で新たに港北区で家を探している人の参考になればと思います。
入園させやすいコツ等については言及せず、今回は保育園の入園倍率の地域差にのみ言及します。
ちなみに我が家の0歳児は無事に区内の保育園に受かりました。ですが、近所の同級生の中には落ちてしまった人も一定数いました。
使用したデータ
令和6年度 保育所等 新規利用見込数
令和6年4月二次入所の受入可能数(見込み)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/kurashi/kosodate_kyoiku/hoiku/hoikujo/hoiku.files/0207.pdf
神奈川県地価公示価格一覧(令和5年)
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/97040/05kouji_shiryou02.pdf
計算方法
認可保育園のデータのみで計算しています。
保育所のキャパシティ
=入所児童数+新規利用見込数
保育所倍率
=(保育所のキャパシティ+延べ待ち人数-二次入所受入可能数)/保育所のキャパシティ
※4月からの0歳児クラスは入所児童数は0として計算します。
地区ごとの保育所のキャパシティ
0-5歳までの受け入れ可能人数の総数を保育所の所在地区ごとに表したのがこちらの地図です。色がない地区には認可保育所がありません。(新吉田町、大曽根台、高田町、北新横浜、鳥山町、篠原東)
真ん中の1176人のキャパシティをもつのは大倉山です。実際に保育園の数がたくさんあります。続いて北部の日吉や綱島のキャパシティが多くなっています。これらの地区は東急東横線沿線になっていて、東急線で都内へ通勤する親にターゲットを定めて保育所を設置している傾向がありそうです。一方で西部の高田西、新羽町、小机町は地区の面積に割にキャパシティが少なくなっています。グリーンライン、ブルーライン、横浜線が通る地区ですが、どれも都内に直通しない路線です。都内に直通するかしないかでここまで差が出るかという感じです。
地区ごとの保育所倍率
次に0-5歳までのトータルの倍率を地区ごとに表しました。色がない地区には認可保育所がありません。(新吉田町、大曽根台、高田町、北新横浜、鳥山町、篠原東)
1.5倍を超えているのは、日吉、箕輪町、小机町の3地区です。日吉・箕輪町は保育所の数は多いですが、最近大規模マンションがたくさん建ってファミリー層が多く流入してきている影響で倍率が高くなっているようです。特にベネッセ日吉保育園が有名で、延べ入所待ち人数が183人となっています。一方で小机町は、最近宅地開発が進んでいますが、先述の通り保育所のキャパシティがそれに追いついていないようです。
以下年齢ごとに倍率を見ていきます。
0歳であれば多くの地域において1倍前後でまだ入りやすくなっています。1歳だと一気に倍率が上がるので、確実に保育園に入れたい場合は0歳から入れる、というのがセオリーになっています。ですが、日吉、新羽町、小机町では0歳の時点ですでに1.5倍を超えてしまっています。日吉周辺は子供の数が多いのだと思いますが、新羽町や小机町はまず保育園の数が少なすぎます。また、小机町や新羽町は面積で見ても広いので、保育園が遠くなってしまうことが多く、送迎が大変になることが予想されます。なので、いったん新横浜駅前まで出てきて、そこで子供の送り迎えをして通勤、帰宅するという方法も一つの手です。新横浜駅前の保育園は比較的0歳の受け入れ可能人数が多くなっていて、倍率も1を切っています。
1歳で保育園に入るのはかなり困難であることがデータからわかります。日吉、箕輪町、小机町では約3人に1人しか入れない計算になります。これでは両親共働き要件では厳しく、プラスαで加点要素が必要になってきそうです。そんな中でも大倉山を中心とした港北区中部は、激戦と言われる1歳児でも定員割れるか割れないかの倍率です。保育園に入れるか心配な人は大倉山周辺に住む、もしくは通勤経路に組み込むのがよさそうです。
3歳児ともなれば、保育士一人当たりが見ることができる人数が増え、キャパシティが増えるので倍率がどこも1倍前後で需給バランスがよくとれるようになりました。
注目すべきところは、港北区中部の大倉山、大豆戸町、師岡町、大曽根、樽町は比較的年齢ごとの倍率の変動が少なく、かつ1倍前後となっており、保育所の需給バランスがすべての年齢児で優れている地域と言えます。特に住みにくい地域というわけでもないので、保育園に入れるか不安な人は住む候補として上位にあげていいでしょう。他地域に比べて、マンションよりも戸建てが多そうな地域なので、単位面積あたりの世帯が少なく、結果として子供の数もちょうどよくなっているのかもしれません。また、大倉山には「どろっぷ」という港北区の地域子育て支援拠点があります。区内の未就学児の子育てをしている親子が集まる拠点のような施設で、とても良いところです。特に祖父母の支援が受けられない、まわりに子育て仲間がいなくて相談できる相手がいない、などといった状況の方にはとてもオススメできるところです。そういった施設があるのも大倉山の強みになっています。
裏を返せば、タワマンの近くに住むのは保育園の観点からは良くないと言えます。
地価との相関
まず令和5年の宅地の地価を地図に表します。色がないところは宅地地価のデータがない地区です。
区内東部を南北方向に赤くなっていて、わかりやすく東急東横線沿線の地価が高くなっています。綱島と大倉山の間の鶴見川南側(樽町、師岡町)は比較的安くなっていますが、この地区は駅までけっこう遠いです。また、この地区に限らず鶴見川流域はどこも等しく洪水リスクがあるので、そのリスクによる地価への影響は小さいかもしれません。
地価と保育所の倍率で地区ごとにプロットしたグラフを示します。
先で散々出てきた日吉、箕輪町、小机町を除くと正相関が取れそうです。地価が高い→人気の地区で新たにファミリー層が増える→保育園の倍率が上がる、といったストーリーが描けそうですが、裏付けのためには地区ごとの世帯と年齢の情報が必要です。
逆に、急速な宅地、マンション開発が進む地域はこの相関に乗らない特異点になってしまっていました。他のタワマン開発が進む市区でも同様の傾向が出るか見てみるのも面白そうです。
まとめ
港北区のようなTHEベッドタウンでは全体的に保育所のキャパシティが不足しています。ただし、そうは言っても地区ごとに差はありました。戸建てが多い地域は保育所の倍率が低く、一方で急速な宅地、マンション開発が進んでいる地域は保育所の倍率が高くなっている傾向になりました。保育所の心配をしている方の引越先の参考になれば嬉しいです。
宅地、マンション開発をするときに行政と保育所の不足についての協議はしたりしないのでしょうか。そこがうまく連携できるとよりよい街作りができそうな気がします。(百合子はその連携を頑張って都内の待機児童問題を解決したのかな)
参考
参考というか影響を受けた書籍を紹介します。ジャンル問わず様々なデータを分析していて面白いです。